ある日、クライアントから相談を受けました。「うちのホームページ、なんか遅いんですけど」と。サイトを開いてみると、確かに遅い。トップページが完全に表示されるまで5秒以上かかっていました。
調べてみると、WordPressで構築された一般的な企業サイトでした。テーマは有名な有料テーマ、プラグインは12個。特別なことは何もしていません。むしろ、これは日本中の中小企業サイトの「普通」の姿です。
問題は、この「普通」が年々悪化していることにあります。
WordPressサイトは確実に重くなっている
Illustrate Digitalが2016年から2023年にかけて実施したグローバルページスピードレポートは、衝撃的な事実を明らかにしました。WordPressサイトの平均ページサイズは、デスクトップで2.6MB、モバイルで2.3MBに達しています。これは7年前と比較して、デスクトップで34.2%、モバイルで36.4%の増加です。
さらに興味深いのは、この増加が「機能の向上」とは無関係だという点です。表示される内容はほぼ同じなのに、裏で読み込まれるコードの量だけが増えている。7年間で、同じページを表示するために必要なデータ量が3分の1以上増えたのです。
表示速度に至っては、デスクトップで6.7%悪化しています。「技術は進歩しているはずなのに、なぜ遅くなるのか」という疑問は当然でしょう。答えは単純です。技術の進歩以上に、サイトの「重さ」が増しているからです。
主要CMS14種を比較した調査では、WordPressはモバイル速度で14位という結果が出ています。世界のWebサイトの約30%を占めるプラットフォームが、速度面では最下位クラス。これは偶然ではありません。WordPressの設計思想そのものに起因する構造的な問題なのです。
なぜWordPressは遅いのか:3つの根本原因
プラグインという名の積み木
WordPressの最大の魅力は「プラグインで何でもできる」という拡張性にあります。SEO対策をしたければYoast SEOをインストールし、セキュリティを強化したければWordfenceを追加し、お問い合わせフォームが必要ならContact Form 7を入れる。数クリックで機能を追加できる手軽さは、確かに魅力的です。
しかし、この手軽さには代償があります。
私たちが過去1年間で診断した中小企業サイト47件のうち、プラグイン数の平均は14.2個でした。最も多いケースでは31個ものプラグインがインストールされていました。問題は、これらのプラグインが互いに独立して動作していることです。
各プラグインは独自のCSSファイル、JavaScriptファイル、そしてデータベースクエリを持っています。Yoast SEOだけでも、1ページあたり3つのJavaScriptファイルと2つのCSSファイルを読み込みます。Contact Form 7は、フォームが設置されていないページでもスクリプトを読み込みます。これらが積み重なると、1ページを表示するためだけに40〜60個のHTTPリクエストが発生することも珍しくありません。
さらに深刻なのは、プラグインの更新がもたらす肥大化です。プラグイン開発者は新機能を追加し続けます。使わない機能でも、コードはサイトに存在し続け、読み込まれ続けます。7年間でページサイズが34%増加した背景には、このプラグインの肥大化があります。
毎回繰り返されるデータベース処理
WordPressは「動的CMS」です。ユーザーがページにアクセスするたびに、サーバー上でPHPが実行され、MySQLデータベースから必要な情報を取得し、テーマテンプレートと結合してHTMLを生成します。この処理は、アクセスのたびに繰り返されます。
「会社概要」ページを例に考えてみましょう。このページの内容は、おそらく数ヶ月に一度しか更新されません。しかしWordPressでは、1時間に100人がアクセスすれば、100回同じ処理が実行されます。変わらない内容のために、毎回データベースにアクセスし、毎回HTMLを生成しているのです。
典型的なWordPressサイトでは、1ページを表示するために20〜50回のデータベースクエリが実行されます。各クエリには数ミリ秒から数十ミリ秒かかります。これらが積み重なると、サーバー応答時間だけで数百ミリ秒、場合によっては1秒以上を消費します。
私たちが実測したあるWordPressサイトでは、トップページを表示するために87回のデータベースクエリが実行されていました。うち23回は、管理画面でしか使われない情報の取得でした。ユーザーには見えない処理に、貴重な時間が費やされていたのです。
テーマの過剰な汎用性
無料テーマや多機能テーマの多くは、「あらゆるケースに対応する」ことを売りにしています。スライダー、タブ、アコーディオン、ポートフォリオグリッド、タイムライン表示、料金表、チーム紹介、FAQ、カウントダウンタイマー。使えるレイアウトは数十種類。
問題は、これらの機能すべてのコードが常に読み込まれることです。スライダーを使っていなくても、スライダー用のJavaScriptとCSSがサイトに存在し続けます。実際に使っている機能は全体の10〜20%でも、100%のコードが読み込まれるのです。
あるテーマを分析したところ、CSSファイルだけで450KB、JavaScriptは320KBでした。このサイトで実際に使われているスタイルは、全体の8%に過ぎませんでした。400KB以上のCSSが、何の役割も果たさずに読み込まれていたのです。
表示速度がビジネスに与える影響
「遅くても見れればいい」という考え方は、ビジネスにおいては危険です。Googleの調査データは、表示速度と直帰率の関係を明確に示しています。
表示時間が1秒から3秒に増えると、直帰率は32%上昇します。5秒になると90%上昇、6秒を超えると106%上昇します。つまり、6秒かかるサイトでは、1秒で表示されるサイトと比較して、2倍以上のユーザーが「待てずに離脱」しているのです。
コンバージョン率への影響はさらに深刻です。0秒から5秒の間、読み込み時間が1秒増えるごとにコンバージョン率は4.42%低下します。仮に月間1000件のコンバージョンがあるサイトで、表示が2秒遅れているとすれば、毎月約90件のコンバージョンを失っている計算になります。
モバイルでは影響がさらに顕著で、1秒の遅延で最大20%のコンバージョン損失が報告されています。日本では検索の82%がモバイルから行われることを考えると、モバイル表示速度の問題は、そのまま売上の問題に直結します。
実際のクライアント事例を紹介しましょう。大阪市内の税理士事務所のサイトでは、WordPressから静的サイトへの移行後、問い合わせ数が1.4倍に増加しました。サイトの内容は変えていません。デザインも同じです。変わったのは表示速度だけ。モバイルでの表示時間が4.2秒から0.9秒に改善された結果、ユーザーの離脱が減り、コンバージョンが増えたのです。
静的サイトという解決策
私たちが中小企業サイトに提案しているのは、Next.jsをベースとした静的サイトジェネレーター(SSG)によるアプローチです。静的サイトとは、あらかじめ生成されたHTMLファイルをそのまま配信する方式です。
WordPressとの根本的な違いは、「処理のタイミング」にあります。WordPressでは、ユーザーがアクセスするたびにサーバーで処理が実行されます。静的サイトでは、サイトを公開する前に一度だけ処理が実行され、その結果(HTML、CSS、JavaScript)がサーバーに保存されます。ユーザーがアクセスしたとき、サーバーは保存されたファイルをそのまま返すだけ。データベースへのアクセスも、PHPの実行も、テンプレートの結合も必要ありません。
結果として、サーバー応答時間は劇的に短縮されます。WordPressサイトでは400〜800ミリ秒かかっていた応答が、静的サイトでは10〜30ミリ秒で完了します。CDN(コンテンツ配信ネットワーク)を併用すれば、世界中どこからアクセスしても50ミリ秒以下の応答が可能です。
「静的サイト=更新できない」という誤解は、過去のものです。現代のSSGでは、ヘッドレスCMSと呼ばれる管理システムと連携することで、WordPressと変わらない操作性でコンテンツを更新できます。管理画面でテキストを編集し、保存ボタンを押せば、自動的にサイトが再構築され、数十秒後には本番環境に反映されます。
私たちが同一のデザイン・コンテンツで比較テストを行った結果、以下のような差が確認されました。WordPressサイトの初回表示が3.2秒に対し、静的サイトは0.8秒。ページサイズは2.4MBに対して420KB。サーバー応答時間は420ミリ秒に対して12ミリ秒。PageSpeedスコアはモバイルで45点に対して98点。
すべてのサイトに静的サイトが最適なわけではない
公平を期すために言えば、静的サイトにも向き不向きがあります。
静的サイトが最適なのは、コンテンツの更新頻度が週1回程度以下のサイトです。会社紹介サイト、サービス紹介サイト、ランディングページ、ポートフォリオサイト、小〜中規模のブログ。これらは静的サイトの恩恵を最大限に受けられます。
一方、毎日数十件のコンテンツが追加されるニュースサイト、複数の編集者がリアルタイムで同時編集するメディアサイト、在庫情報と連動するECサイト、会員認証が必要な会員制サイトなどは、動的な処理が必要なため、WordPressや他の動的CMSが適しています。
日本の中小企業サイトの80%以上は、前者に該当すると私たちは考えています。「月に数回の更新」「お知らせとブログの投稿」「お問い合わせフォーム」程度の機能であれば、静的サイトで十分対応でき、かつ劇的にパフォーマンスが向上します。
自社サイトの状態を確認する方法
まずは現状を把握することから始めてください。Google PageSpeed Insights(pagespeed.web.dev)で自社サイトのURLを入力すれば、無料で詳細な診断を受けられます。
特に注目すべきは「モバイル」のスコアです。デスクトップでは80点でも、モバイルでは30点というケースは珍しくありません。日本ではモバイル検索が主流のため、モバイルスコアがビジネスに直結します。
目安として、モバイルスコア50点以下は要改善、70点以下でも改善の余地あり、90点以上であれば良好と考えてください。
私たちは、サイトの無料診断を実施しています。PageSpeedスコアだけでなく、Core Web Vitalsの各指標、プラグイン構成、テーマの状態、改善による期待効果まで、具体的にレポートをお伝えします。
WordPressが悪いわけではありません。しかし、中小企業サイトにとって最適な選択肢かどうかは、冷静に検討する価値があります。表示速度の改善は、そのまま売上の改善につながる可能性を秘めています。
